About
『50歳、私は烏江のほとりにたどり着いた』は、中国・河南の農村から上海、そしてアメリカへと歩んだ慕凡の半生を綴る、ノンフィクションの回想録である。
幼い頃、家庭での不公平な扱いと愛情の乏しさに苦しみ、何度も家出を繰り返した。「あの家から逃れたい」という願いを抱き、15歳で学業を中断して働き始める。工場での仕事や営業を通じて、稼げば自立し、運命を変えられると信じていた。
最初の結婚が終わると、幼い息子を一人で育てながら、仕事と育児の両立に追われる。その一方、親子鑑定によって、父と呼び続けた人が実の父ではないと知る。出生の真相を求めても、幼少期から抱えてきた疑問や傷がすべて解けることはなかった。
息子により良い教育と暮らしを与えようと上海へ移り、会社を設立する。しかし、経営や人間関係、成長する息子との対立に直面する。やがて息子をイギリスへ留学させ、費用を負担し、何度も往復するが、子どもは次第に自分の人生を歩み始める。
その後、二度目の結婚を経てアメリカへ移住する。言葉の壁、育児と家事の負担、金銭をめぐる対立が重なり、期待していた安らぎは得られなかった。
50歳になった彼は、家族から受けた傷だけでなく、自分の選択と限界にも向き合う。稼ぐことを人生の出口と考え、尽くすことで関係を守ろうとしながら、自分自身の暮らしをどう築くかには十分に備えてこなかった。
これは、成功や救いを得た物語ではない。「烏江のほとり」というイメージで半生を振り返り、問いを残す記録である。幼少期の経験は、その後の選択にどう影響するのか。家族への責任と、自分を顧みない生き方の境界はどこにあるのか。運命を変えるためには、勇気と献身のほかに何が必要なのか。